家の前に大きな古池がある。我家の庭みたいなもんで~。この池のお蔭で、蘭が良く育つんだ。
この池は、なが~く干されなくて~、30年以上経つだろう…。
それが、一昨年、干されてね~、僕は、心が随分痛んだ!。
この池に、老いた大鯉や大ナマズが住んでいるのを知っていたからね~。
かれらは、僕の友達みたいなもんだ。
この池は、むかし、水がきれいでね~、子供の頃、よく泳ぎ、釣りをして遊んだ。
藻がたくさん生えてて、いろんな魚が住んでいたんだ…。
鯉に、ナマズ~。フナにウグイに、餌取りのうまいジャコ・ニゴ。ハゼのような形のチンに、エビ、カニ、シジミ、カラス貝など、いろいろいたんだ。
それが~、だんだん汚くなってね~。今じゃ、どろ池だ。理由は分かっている。
20歳を過ぎたころ、一時期、食用鯉が何万匹も飼われたことがあってね~、池を綺麗にする藻が全滅したんだ。
それに、最近、田んぼの圃場整備があって~、池に流れ込む小川がコンクリートになってしまった。更に生活排水の流れ込みも加わって、藻も魚も、小川に住めなくなってしまったんだ。池にヒシばっかり茂るようになってね~、このヒシが、冬に腐り、池が汚く濁るという訳なんだ。
池が干されたのは、稲に水が不用になる秋だった。この時期は、通常、来年のために水を溜める時期だ。しかし、池の水がどんどん減っていくんだ。
池の水が減ってくると、釣り人が増えてね~。5~60センチほどの大ナマズが、釣り捨てられ、腐って異臭を放っていた。白い目をしてね~。
やがて知ったのだが、池の荒手と錠元の改修工事が行われるとのことだっだ。
完全に池が干し上げられてしまう~、池の魚たちに逃げ場はない…、絶対絶命だ!
もう魚たちが助かる可能性は、ゼロなんだ。
30年以上の、この池の歴史に幕が下りるのだ。ゆうゆうと泳ぐ大鯉の姿をこの池で見かけることは、二度とない。
最後の錠栓が抜かれ、水位は、深いところで1メートル程度になった。下は、ぬかるみだ。村の衆が、簡単なボートに乗って魚を追い回していた。僕は、遠くからじっと毎日眺めていた。余り見たくなかったんだ、こんな光景は。後で聞いたのだが、1メートルほどの鯉がかなりいたそうだ。大鯉は、殺さないようにどこかに運ばれたとのことだ。
僕は、この話を聞いたとき、「よかったなあ、せめてもの救いだ。」と胸を撫で下ろした。
魚が獲られたあと、小魚を狙って白鷺が、真っ白になるほど群がった。すごい数なんだ!。鳥たちにとっては、絶好の餌場となった。白鷺やカラスが群がるのを見て、僕はとても複雑な気持ちだった。小魚たちは、壮絶な戦いにさらされているのだ。
獲物が少なくなってきたのだろう。白鷺が、次第に深みにはいっていった。勇敢というか、知恵たけたやつがいて、水面に長い首だけ出してついばんでいるものもいた。こんな光景は、はじめてだ!。
やがて、だんだん鳥達がいなくなり、池は、静まり返った…。完全に小魚たちは食べ尽くされたんだ。魚一匹いない死の池と化したと思っていたね~。
完全に干され、水溜まりはなくなり、ぬかるみの中を、小さい川のようにくねりながら何箇所からか、水は細く流れていた。
冬が過ぎ、やがて春になった。池の改修工事が終わり、錠が閉められ、何事もなかったように、池は満杯になった。
梅雨になり、すごい豪雨が降った時だった。溢れた池の水は、荒手のせきを大きく越えて 川となって流れた。すざましい水量だ。やがて雨が止み、数日で溢れ出る水がなくなった。
僕は、気の向くまま、ふらっと荒手を見に入った。改修された荒手のコンクリートがやたらに白く光ってみえ、うらめしく思えたね~。 荒手の中に水圧を弱めるための大きな枡が設けられている。フッとその中をのぞきこんで驚いた。7~8センチほどの小ブナが何十匹も泳いでいるではないか!。信んじらない光景だ!。大雨のとき、池から溢れた水にのって流れ出たに違いない。
枡に続く排水溝は、すごい勾配で、高さが6~7メートルほどもあり、コンクリートで出来ている。下から上ってくる可能性はゼロパーセントだ。垂直の岩壁を上るというウナギだって極めて難しいだろう。
枡を泳ぐ小ブナの数からすれば、池には、相当の小ブナがいる可能性があるのだ。
たった2、3ヶ月の間に、どこから入ったんだろう。
不思議で不思議で仕方がなかった!!。
つづく |